サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management / SCM)は、製品やサービスの生産段階から消費者に届けられるまでの全過程を包括的に管理するためのアプローチです。
このページでは、サプライチェーンの管理と最適化を担当するサプライチェーンマネジメントの役割と仕事内容について解説していきます。
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サプライチェーンとは?
サプライチェーン(Supply Chain又は供給連鎖)とは、製品が原材料の段階から消費者の手に渡るまでの全工程を包括的に指し示す言葉で、異なる業者や部門が連携してサプライチェーン一連の流れが構築されていきます。
サプライチェーンに関する簡単な事例
ここでは、サプライチェーンを理解する為の簡単な事例を2つ紹介します。
■ パソコンに関するサプライチェーンの事例
パソコンのサプライチェーンは、製造に必要な各部品(プロセッサ、メモリ、ディスプレイ、ハードドライブなど)を世界中から調達することから始まります。これらの部品の供給国には、アメリカ、中国、韓国、台湾などが挙げられます。
調達された部品は、台湾や中国の製造会社で組み立てられます。これらの製造会社では、組み立ての効率性を最大限に高めるために最新の自動化技術が使用されたりもしています。
完成した製品は、日本を含む世界各国に輸送され、各地の販売会社(オンラインストアや実店舗)を通して消費者の手元に届きます。
■ 衣料品に関するサプライチェーンの事例
衣料品のサプライチェーンは、まず必要な原材料(綿、ポリエステル、ウールなど)の調達から始まります。これらの原材料の供給国には、インド、中国、アメリカ、オーストラリアなどが挙げられます。
調達された原材料は、インド、中国、バングラデシュなどの製造会社で織物や生地、衣料品へと加工(加工の過程では、デザインやサイズの調整などが行われます)されます。
完成した衣料品は、日本を含む世界各国に輸送され、上記のパソコンなどの電子機器と同様に各地の販売会社(オンラインストアや実店舗)を通して消費者の手元に届きます。
これらのように、パソコンや衣料品も原材料調達から製造、販売、消費(消費者)といった一連の流れを通じてサプライチェーンが成り立っています。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは?
サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management / SCM)は、製品やサービスが生産される段階から消費者に届けられるまでの全過程(原材料の調達から生産、配送、そして顧客への販売など)を効果的に管理するためのアプローチです。
サプライチェーンマネジメントの役割
グローバル化が進む現代において、貨物(原材料や製品など)の輸送はボーダーレスに行われるのが主流となっています。その為、貨物の輸送範囲が拡大し複雑化するサプライチェーンを効果的に管理する事は、生産コストの削減やリードタイムの短縮、サービス品質の向上などに繋がります。
サプライチェーンマネジメントは、このような企業の競争力に直結する構造的な部分を最適化する重要な役目を担っています。
サプライチェーンマネジメントに必要な能力・スキル
■ 分析力
サプライチェーンマネジメントには、大量のデータを分析し活用する能力が求められます。データ分析ツールや統計などを駆使して、需要予測、在庫レベルの最適化、供給計画などを行っていきます。
■ コミュニケーション能力
サプライチェーンの管理業務では多くの部門や関係者との連携が必要となります。その為、サプライチェーンマネジメントには、各部門と良好な関係を築き且つ協力を得ながら業務を進めていく能力が求められます。業務の中にはサプライヤーや顧客との交渉も発生するため、双方の利害を俯瞰した提案力も求められます。
■ 問題解決能力
サプライチェーンでは、プロジェクトの範囲が自社の管理域を超えてしまい、各工程が計画通りに進まない事もあります。その為、サプライチェーンマネジメントには問題発生時の原因の特定や、制限されたリソースでの対策立案など、柔軟な対応力が求められます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)の主な業務内容
一般的にサプライチェーンマネジメントの業務は、「サプライチェーンネットワークデザイン」、「計画業務」、「実行業務」、「管理業務」の4つに分類分けされます。ただし、企業によっては各業務を細分化し、それぞれの業務に特化した部門を設置する場合もあります。
サプライチェーンネットワークデザイン
製品の製造拠点や配送ルート、倉庫の配置、在庫配置、輸送方法など、サプライチェーン全体の流れを設計・構築し、企業活動(事業構造)の基盤を作る業務です。サプライチェーンの構築は、一度決定すると変更が難しく、また製品供給のリードタイムやコスト面に大きな影響を与えてしまう事もあります。
計画業務
企業が持つ事業戦略や過去の売上データに基いた需要予測の立案から始まり、生産・販在・在庫計画(PSI)や販売事業計画(S&OP)の作成を行います。また、それらを製品単位のマスター生産計画(MPS)や資材所要量計画(MRP)などに落とし込む業務です。計画業務は、経営層、営業・マーケティング部門、ファイナンス部門など連携を取りながら進めていきます。
実行業務
計画業務で立てられた計画に基づき調達や生産、物流業務を進めていきます。この間、計画に対する業務の進行度合を確認し、問題が発生すれば対応策を立案・実行します。(オペレーションレベルで問題が発生した際にも、各担当部門と協力してプロセスの調整を図ります)
管理業務
予実分析を行い、予測がずれた要因の特定やKPIに基づき生産能力や供給リードタイムなど現場オペレーションの評価を行います。その後、分析結果を活かして需要予測モデルの改善やオペレーション業務の改善を図ります。
サプライチェーンマネジメント(SCM)で得られる経験
広範囲なビジネススキルの習得
サプライチェーンマネジメントの業務では、市場動向やリスクを考慮しながら長期的な視点で計画立案、社内外関係者との連携を行います。このような業務環境は、情報収集・分析力、交渉力、問題解決力など広範なビジネススキルを向上させる場であると言えるでしょう。また、バリューチェーンの上流から下流までに携わることで、ビジネスの全体像を理解できる職種でもあります。
グローバルな視野の獲得
グローバル化が進む現代において、他国の企業や関係者との連携は、企業にとっての必須事項とも言えるようになっています。その為、各国の市場動向、競争状況、法規制、労働者市場などに関する情報収集もサプライチェーンの重要項目(リスク管理や競争優位性において)となっています。これらの業務を通じて、国際ビジネスにおける市場の理解やコミュニケーション力の向上が図れる職種と言えます。
最新技術やITツールの知見と理解
サプライチェーンマネジメントの業務には需要予測や生産・物流オペレーションの改善など、データや予実差に基づく業務が含まれます。取り扱うデータの量は膨大であり、また情報の即時性が大きく影響する昨今のビジネス環境においては、ITツールの効果的な活用が重要な役割を担います。ERPシステムによる各部門データの一元管理やAIによるデータ分析、製造過程での異常検知など、様々なサプライチェーンの場では様々なテクノロジーが活用がされています。業務での使用はもちろん、各ツールの導入などの機会に携わることもあり、先進技術に触れられることもサプライチェーンマネジメントの特徴といえます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)の位置づけ
複雑化するビジネス環境で競争優位を獲得する為の要
サプライチェーンマネジメントは企業運営においての要となる職種の一つです。製品の生産方式、物流拠点の場所、貨物の輸送方法など、サプライチェーンのあり方は事業構造そのものとの深い関わりを持ち、企業が持つ競争力に大きな影響を与えます。また、自然災害や疫病などのリスク管理、環境負荷への配慮など、持続可能な組織運営を行う上でもサプライチェーンマネジメントは大きな役割を担っています。
サプライチェーンマネジメントが求められる背景
■ グローバル化
グローバル化が進む現在において、多くの企業が国境を越えて原材料や部品を調達し、製品を生産・販売しています。このように複数国に渡って供給網や物流網を広げる必要がある企業にとって、サプライチェーンを適切に管理し、各国の物流や供給体制を統合・最適化する必要性高まっています。
■ デジタル化とサプライチェーンの統合
近年の急速なAI導入やDX化を通して、企業は膨大なデータをリアルタイムで収集・分析することが可能になり、またこれらのデータはサプライチェーンの一環でもある需要予測や在庫管理に活用されています。サプライチェーンとDX化の効果的な統合は、企業の素早く正確な意思決定や競争優位性へと繋がります。
■ リスク分散・レジリエンスの強化
疫病の蔓延や紛争・戦争の勃発により、供給網・物流網が分断されるなどグローバルサプライチェーンの脆弱性が近年露わになりました。これまで日本を含む先進国では、労働人口の減少や物価上昇による人件費・原材料高騰から、労働力や原材料の調達先を途上国に集約する傾向がありました。ただ、事業の継続性におけるリスク分散とレジリエンスの観点から、コスト重視のみではなく、企業があらゆる事態に柔軟に対応できるようなサプライチェーンの構築が求められています。
まとめ
サプライチェーンマネジメントは、企業の競争力を左右する重要な職務です。世界各国の市場環境や急速に変化するデジタル分野など、多岐にわたる知識が必要とされる職種ではありますが、企業の成長と持続可能性の確立に大きく貢献する職種でもあります。