
昔から「モノづくり大国」と呼ばれる日本、実際にGDPの約20%は製造業によって賄われており、製造業によって発展してきたと言っても過言ではありません。海外から原材料・燃料資源を輸入し、優れた技術力で作った製品を海外に輸出するスタイルの日本では貿易は重要な役割を担っています。グローバル化が加速する現代において、貿易分野のスペシャリストへの需要は高まっており、国際人材の活躍の場として貿易事務が注目を集めています。本記事ではそんな人気職種の1つである貿易事務職のお仕事について解説いたします。
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輸出入業務(貿易)の流れ
貿易とはある国と別の国との間で行なわれる商品の売買を指します。貿易と聞くと輸出入を想起される方が多いかと思いますが輸出入業務は貿易プロセスの一部にすぎません。まずは貿易全体の流れをご紹介します。
売買契約の締結
貿易は輸出者と輸入者がそれぞれ取引先を選定するところから始まります。商品の品質、価格、数量、輸送方法や決済方法などの取り決めをこの段階で行います。
貨物の輸送(輸出入・通関)
両者が契約の合意に至った後、貨物の輸送に着手となりますが輸出者と輸入者はそれぞれ異なるプロセスを踏みます。
輸出
信用状(L/C)の確認
売買契約締結時に決済方法を信用状決済(L/C決済)とした場合、輸入者が開設した信用状が取引銀行を通じて輸出者へ送られます。信用状の内容が締結した契約に沿っているかを確認します。
貨物積込・通関手続き
信用状に不備がなければ輸出者は納期に合わせてフォワーダー等と協力し、契約時に決めた梱包方法・輸送方法に遵守し、貨物を準備します。この際にインボイス、パッケージリスト、B/L・AWBの作成を行い、税関へ輸出申告をします。
船荷証券(B/L)・航空貨物運送状(AWB)の入手
輸出許可が下りた後、貨物を船(航空機)へ積み込み、B/L・AWBの発行を行います。輸出者は料金を支払い、発行された書類を受け取ります。
代金回収
信用状決済の場合、輸出者は取引銀行を通じて代金回収を行います。発行されたB/L・AWBと為替手形を銀行へ提出。銀行にて信用状と提出書類の内容を確認し、不備がなければ手形の買い取りが行われ、輸出者へ代金が渡ります。
輸入
信用状(L/C)の開設
信用状決済が決済方法として選択された場合、まず輸入者が取引銀行へ信用状開設依頼書を提出します。銀行にて信用状の開設が行われた後、輸出者に信用状が送付されます。
船荷証券(B/L)・航空貨物運送状(AWB)の入手・代金支払い
輸出者が必要書類と為替手形を銀行へ提出後、輸入者は銀行に代金を支払ってB/L・AWBを入手し、書類に間違いがないかを確認。その後、フォワーダー等共に通関や貨物引取業務の準備に移ります。輸出者との取り決めや商品に合わせて、事前に輸入の許可・承認が必要であれば届出を提出します。
通関手続き・貨物引き取り
船会社または航空会社から貨物到着案内(アライバルノーティス)が届いたら、輸入申告を行い、許可が下りたら貨物を引き取ります。
代金決済
代金決済のタイミングは契約内容に異なりますが船荷証券(B/L)の発行・受け取りを基軸とするのが一般的です。船荷証券が貨物の受取証明書として扱われていることが理由と考えられます。多くのケースでは輸入通関・貨物引き取りの際(前)に決済が行われます。
貿易事務が担当するお仕事
上述の通り、貿易は多くのプロセスから構成されており、必要となる書類や手続きも多岐に渡ります。実際の業務において、貿易事務が担当する業務をご紹介いたします。
書類の作成・確認
輸出入時に必要となる貿易書類は契約内容や商品に合わせて異なります。下記が貿易書類の代表例です。
- インボイス:輸出する商品の数量、価格、決済方法などを記した書類
- パッキングリスト:輸出する貨物の個数や重量などが記載された書類
- 船荷証券(B/L)・航空貨物運送状(AWB):貨物の引渡しに必要となる書類
- 信用状(L/C):銀行による代金支払い確約書
- 為替手形:代金の支払い・回収に関連する書類
貿易書類の多くは英語で作成されるため、英文書類を読み書きできる程度の英語力が必要になります。
出荷・輸送・通関等の手配
貨物毎に輸送方法は異なり、船・航空機・トラックなど多岐に渡ります。売買契約時の決めた輸送方法に従い、船会社や航空会社へブッキングを行います。合わせて税関への輸出・輸入の申告も貿易事務が担当する場合が多いです。メーカーや商社は、貨物の輸送手配・通関手続きを一括で引き受けてくれるフォワーダーと呼ばれる会社に依頼することが一般的です。
カスタマー対応業務
貨物の輸送状況や在庫状況などクライアントからの問い合わせへ対応なども貿易事務職が担当することが多いです。状況に応じて海外の関係者ともやり取りが発生するため、メール・電話でのやり取りに対応できる英語力が必要となります。
貿易事務に関するスキル
貿易事務に求められるスキル
メールや書面でのやり取りができるレベルの英語力
輸出入の際に使用される書類は全て英語で記されていることに加え、納期調整や貨物状況の確認など海外の関係者とのやり取りが発生するため、貿易事務職は日常的に業務で英語を使用することになります。基本的にはメールでのやり取りが主となりますが、貨物遅延やその他緊急事態の際は電話で海外の担当者とやり取りをする必要があります。高度な英語力は必ずしも必要ではありませんが貿易に関する用語の理解とテンプレートや事前に準備した文章に沿って最低限のコミュニケーションが図れる程度の英語力が求められます。
折衝力・調整力
貿易事務の業務では社内外問わず多くの関係者とのコミュニケーションが発生します。顧客や自社生産部門、倉庫部門との納期調整、通関時の税関対応など円滑に業務を遂行するために各所との調整は避けられません。貨物遅延や損傷など時には自社と顧客の関係を脅かす事態の対応をする可能性もあります。状況に応じて柔軟かつ適切に対処する能力が求められます。
マルチタスク能力
貿易書類の作成、ブッキング、顧客対応などの貿易事務のお仕事は多岐に渡ります。また、書類に少しでもミスがあると通関が通らないため、高い正確性も求められます。通常、複数の顧客を同時に担当することが多いため、高い正確性が求められる業務を複数並行してに処理する必要があります。特に航空輸送の場合はリードタイムが短いため、迅速に業務を遂行しなければなりません。貨物の遅れは顧客満足度に直接大きな影響を与えるため、複雑性の高い業務でも優先順位を付け、効率的に遂行する能力が求められます。
貿易事務で得られるスキル・経験
英語を使用した業務経験
輸出入に使用される書類は全て英語で記載されており、また海外顧客やサプライヤーとのやり取りも頻繫に発生することから貿易事務の業務では日常的に英語に触れることができます。メールでのやり取りから電話対応まで段階的に業務を通じて、自身の英語力を向上させること機会が豊富であり、グローバルに活躍したいという志向をお持ちの方には貿易事務はお勧めの職種と言えます。
国内外関係者との調整・交渉業務経験
貿易事務の業務では顧客との納期調整や貨物状況の確認、倉庫部門との在庫の確認など海外・国内の社内外問わず各関係者との調整が欠かせません。商習慣やコミュニケーションスタイルが異なる海外関係者と折衝することも多く、相手や状況に応じた柔軟な対応力を養うことが可能です。また、納期や貿易条件などあらゆる制約がある中でプロジェクトを成功に導く経験を積むことができます。
国際物流分野での専門性
グローバル化が加速し、国境を越えたモノのやり取りが増大する昨今において物流の重要性は極めて高いものとなっています。貿易事務で身に着けることができる輸出入に関する知識はまさに国内外のモノを出入を司る国際物流の根幹とも言えます。国により異なる法規制などはあるものの貿易事務の業務内容や輸出入プロセスは国際的に統一された部分も多いため、国内だけでなく海外でも活躍することができる専門性を身に着けることができます。
貿易事務のキャリアパス
特殊貨物のシッピングコーディネーター
貿易事務として一通りの業務経験を積んだ後にコンテナに収まらない超重量物(プラント、橋など)や規制が多く、温度管理を必要とする医薬品など特殊な貨物の輸送を担当するシッピングコーディネーターになることができます。輸出入に関するより高度な専門性を身に着けることがキャリアパスです。
通関士
輸出入のプロセス・関連書類作成の経験を積み、関税法などの法律知識を身に着ければ通関士として勤務することも可能です。貿易事務として得た輸出入業務の経験をもとに通関士資格に合格すれば、昇進・転職にも有利となります。
国際物流営業
輸出入の知識・経験を活かし、国際物流営業に就くことも可能です。実際、総合職採用を行う企業では入社後に貿易事務として輸出入オペレーションの知識を習得した後に営業職に配置転換することも珍しくありません。貿易事務を経て培った調整力・交渉力も役立つことでしょう。
メーカー・商社の海外営業
国際物流営業と同様にメーカーや商社の海外営業も貿易事務の経験を活かせるポジションとして挙げられます。海外顧客との契約の際にはインコタームズに即した製品供給方法も定めるため、輸出入知識をダイレクトに活かすことができます。貿易事務を経て培った調整力・交渉力も役立つことでしょう。
購買・調達
海外サプライヤーから原材料や部品を調達する際は輸送方法や貿易条件の設定も行うため、貿易事務の経験を活かすことが可能です。また、企業によっては購買・調達職が輸入業務を担当する場合もございます。
まとめ
このように貿易事務は海外とのやり取りや英語を使用する機会が多く、また重要度の高い書類作成等に関わることから一般的な事務職よりも専門性の高いお仕事と言えます。グローバル化が進む中で貿易の持つ重要性は増しており、貿易事務のお仕事を経て得られる経験・スキルは長期的に価値のあるものとなるでしょう。
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